英語民間試験見送りに思う

11月1日受付開始予定であった、大学受験の「英語民間試験見送り」がきまりました。従来の大学受験で行われている「読む」「聞く」に加えて、「書く」「話す」試験を追加することになる予定でした。私は、25歳から26歳までの二年間、シカゴの大学院に留学して、その準備に手間暇かけたのを思い出しました。というのは、大学院の入学準備のために、TOEFL,GMATの一定レベル以上の点数が求められ、それをクリアするために過去問題集を学習して、さらに、これらの民間試験を受けに行くのですが、私は当時、大阪勤務でしたから、関西では神戸のアメリカンスクールのみが会場になっていて、奈良から神戸に2時間半かけて受験に行ったのを覚えています。24歳でも社会人だったから、交通費・受験料なども気にせず受験できたと思います。シカゴ大学経営大学院のAdmissionは何とかいただいたのですが、依然英語に自信が無かったので、私は、サマースクールとして、コロラド大学のEconomic Instituteに入学しました。英語で学習すると、経済学がいかにわかりやすく、論理的に面白いものであるかが良くわかりました。シカゴ大学で実際の講義が始まると、求められる英語のレベルは日本にいたときに想像した以上でしたが、最初の1か月が経過したころから慣れてきて、授業や、アメリカ人との会話を楽しむようになっていました。実際に、具体的な課題に直面しないと、人間は本気になれないものだと感じました。全ての理屈よりも、経験が優先すると説くのはこの時の経験があるからです。その後も、銀行のM&A等の業務でアメリカで交渉することが多くありました。ここでも経験がすべてに優先します。

さて、大学受験の英語の話ですが、私たちのころは、英語の試験は、「読む」「書く」が主体で、「聞く」はTOEFL・英検等だけでした。「話す」は実地で求められますが、大学入学には関係ありませんでした。私が卒業した大阪教育大学附属高等学校では、教員の英語の発音もnativeではないものの美しく、「受験のための指導」が行われることはありませんでした。当時も、公立高校は異なった教育をしていたのかも知れません。今は、小中学校から、「読む・書く・聞く・話す」のバランスの取れた本格的な英語の教育が行われ、大変喜ばしいことだと思います。そうなると、大学受験でもこれら4つの能力をテストすることが妥当だということになります。私たちの時代は、英語は海外の論文を読み、英語論文を書く能力が基本でした。大学受験でも、「読む」「書く」ことができれば基本的に良かったと思います。しかし、今は国際交流時代で、学会発表も英語で質疑応答・議論することが求められます。私の所属する学会でも、学会の理事は、和文論文に加え、英文論文の発表が必須と考えられています。それは、論文が海外から評価され、引用されないと、学者や学会も評価されないからです。ところで、では、「すべての大学受験者に聞く・話す能力」が求められるかという点については、意見が分かれると思います。本来は、研究者を輩出する大学は、これら4つの英語能力が求められることは間違いないでしょう。また、研究者以外の仕事で、英語能力が求められる時代になっているので、大学教育のレベルを高めるためには、4つの英語能力が高いことは「望ましい」状態だと思います。さらに、若い日本人が国際的な仕事をするよりも国内の仕事を指向する傾向が強いことの解決の一助になるかもしれません。

そして、教育の現場で17年間にわたり大学や大学院で講義をしてきた経験から申し上げれば、理数科をはじめとした「科学的・論理的思考力」、正しい日本語を使いこなせる「言語論理力」が不可欠であり、英語はその基礎の上に立っていることを忘れてはならないと思います。

(画像は、2019.11.3世界的な活躍をされている長崎市出身のガーデナー・石原和幸氏及び関係者と長崎で会食。英語も大事だが、中身の技術や感性はもっと大事。)

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