奈良は「素材の強さ」が魅力

11/2奈良国立博物館の「第71回正倉院展」を見学し、また、奈良の町を歩いてみて、「奈良は素材」だと思いました。奈良の興福寺・東大寺・正倉院の境内や平城京は、私の子供時代の遊び場でしたが、これが人類の遺産であるとは、知りませんでした。1,200年以上前の、絵や仏像や家具等の正倉院収蔵品を見ていて、武骨で粗削りなところはありますが、実に人間的で、おおらかで力強い素朴な造形や人間性が表れていると感じました。これは、万葉集にも言えることです。家具等を見ていても、少し手を加えれば、ホームセンターに売ってそうな親近感があります。京都は、洗練された造形美や言葉に特徴がありますが、ある種完成された感があり、私にとって、奈良の文化財・遺品の方が、「原点」で魅力的に映ります。唐から奈良にもたらされた様々な文物や文化が、あまり手を加えられることなく、奈良で使われていたことが正倉院に表れています。京都の平安京は、骨格において中国の制度を踏襲しつつも、文化の中身は、極めて日本独特のものに変えられています。

今、私は長崎で離島を含む仕事に多くの時間を過ごし、次に東京で仕事や日常生活を送り、奈良で年に何度か行って四季の移ろいを感じる生活を送っています。最近対馬観光戦略を作っていて、「観光とは何か」を考えることがあります。観光とは、「他地域の日常を経験すること」ではないかと思います。日本人は、これまで、世界中を「名所めぐり」と称して、忙しく見て回る「物見遊山観光」に慣れてきました。でも欧米人の生活や、超富裕層の方々と接していると、ゆっくりと「旅行先で生活する」という感覚です。ハワイにしても、マリンスポーツやゴルフを楽しむということもありますが、基本は、「ハワイで時間を過ごす」ことを愉しんでいると思います。外国人観光客も、日本や他国での生活をゆっくりと体験することにより、「時間の経過を愉しむ」という最高に贅沢な立場になると思います。その中に、歴史文化を感じさせる有形・無形の文化財や、温泉や食等があれば、大変いいということになるのではないかと思います。「世界遺産があれば観光客が来る」という現象は、2-3年は続くでしょうが、20-30年続く観光資源にするには、不断の観光政策と、その地域自体の魅力維持・増進が不可欠です。観光政策と言っても、行政ができることは、地域ブランド向上やインフラ整備が主体で、民間事業者の努力に負う部分が大きいのが実情です。

私が、自治体に協力して観光戦略を見直し、成功をお手伝いさせていただいた例は多くありますが、忘れられないのは、新上五島町の旧国民宿舎建て替え時の際の、「マルゲリータ」企画と議会説明でした。ここは世界的にも珍しい、島の「馬の背」に建てられた、温泉地で、眺望が優れているだけでなく、「朝日と夕日の両方が見れる」不思議なリゾートホテルです。町営で、ホテルの建物は町が建設しましたが、運営を全国公募して、東京の「際コーポレーション」が受託しており、イタリアンレストランをオーベルジュとして併設し、日本・世界から、富裕層を含む多くの観光客が訪れて、稀有な自然環境や食事を楽しんでおられます。観光は、最後は民間の知恵をどう生かすかだと思います。それは、観光の「素材」を活かすことができるのは、民間企業だからです。この点で、奈良も長崎も多くの世界遺産を含む「素材」を抱えながら、「よりレベルの高い観光地」に脱皮していく途上にあると思います(画像は、奈良・猿沢の池から早朝の興福寺を臨む)。

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