歴史を未来に活かす

2020.2.6長崎学ネットワーク会議理事会での私の挨拶(輪番)の原稿を掲載させていただきます。長崎近代化遺産研究会のこれまでと、これからの活動についてお話させていただきました。

〇「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言います。私は18年前に長崎に来ましたが、長崎の歴史ほど、江戸時代以降の短い期間に、多様で、変化に富んだ歴史も少ないのではないかと考えてきました。それは、各時代によって、異文化交流によって形成された特異な歴史を有するからです。近世の貿易・文明の移入、近代の重工業の技術の移入、原爆投下と平和による世界との交流、どれをとっても、日本をリードしうる歴史であったと思います。

 

〇長崎近代化遺産研究会は、2007年から、本格的に、長崎の近代化の歴史を学び、啓発する場として、活動を続けてきました。当初から、「産業革命遺産」が世界遺産に登録されなくてもこの活動を続けて行こうとメンバーは考えていました。幸いにして、2015年に世界遺産登録となったのですが、世界遺産登録のインパクトは大きく、内外から長崎の近代産業史が注目されることにもなったと思います。研究会として、本を6冊出版、テレビ番組制作を3本、シンポジウムを3回開催してきました。長崎大学工学部の岡林先生のご指導をいただいたこともありました。今は、長崎市の「長崎歴史の学校」でもメンバーが講義をさせていただいており、こうした経験の蓄積が、研究会を意義あるものとしていると思います。しかし、今後は、研究会を続けていくために、若い方々の参画と、歴史学の専門の先生方の協力が必要と考えています。

 

〇歴史を学ぶことは、長崎の未来を切り開くために、大きな知恵を与えてくれます。長崎は、貿易・商業都市から、明治以降の重工業都市へと変革を遂げ、衰退を免れました。戦後、原爆投下という忌まわしい事実の後、国と民間の計画によって立派に復興を成し遂げ、造船と観光と水産で発展してきたと思います。しかし、造船はアジアに移行し、水産は漁獲高の激減で過去の栄光はなくなり、観光とその関連産業が今の長崎を支えていると思います。幕末から明治にかけて、技術をてこにして、三菱を中心に産業革命を成し遂げたと同様の「産業転換」を図るべき時期を迎えています。「人が集まる都市」「強い産業を創造できる都市」への変革を成し遂げるために、強い意志と、知恵を発揮するべき時で、その知恵は、近代化の歴史の中に多くのヒントが隠されていると思います。これからも、社会と対話しながら、研究会を続けて行きたいと考えています。

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大学入試に思う

東京で霙の降る中で、大学入試共通一次試験が行われました。18歳の時に、東大の一次試験を受けた時のことを思い出していました。当時の東大の一次試験は、現在の共通一次試験に似たところがあって、基本的な理解を確認する良問が出されていましたが、国語・数学・外国語以外に、特徴は、社会も理科も2科目ずつだったということでした。私は、社会はできるだけ勉強しなくてもいい地理と日本史、理科は生物と地学を選んでいました。地理は全く勉強しなくても小学生の時から、地図を見るのが大好きだったので、世界地図の地形や地名はほとんど覚えていました。地学は、地球・宇宙と天候が大好きな子供でしたから、特に勉強しませんでした。今も、国立大学は受験科目数が多いことが、受験生に嫌われているという趣旨の記事がサイトに出ていたので、「変わっていないのだなあ」と思いました。もし大学受験が競争試験であれば、科目数が多い方が、試験当日の出来不出来が影響せず、安定するので、望ましいのですが、「反対の考え方があるのだなあ」と思いました。大学受験については、様々な改革が行われてきていますが、基本は変わっていないということだと感じました。

シンクタンクの仕事をしていると、様々な政策を策定したり、提案することになるので、「理系的文系」「文系的理系」が望ましいと思います。それは、政策には根拠が求められるからで、文系であっても「科学的思考」が不可欠です。社会科学全般に統計解析手法や、データサイエンスが不可欠です。また、数学や物理等、理系的思考法ができて、知識がある方が、機械・半導体やAI/IoT/ロボット等を理解するのが楽になります。尤も、これらは、後天的に勉強すれば幾らでも補えますが、「思考を拒否しない」ことが重要です。シンクタンカーに求められる最大の素質は何かと聞かれたら、「人間に対する熱い心」と「知的好奇心」と「論理的思考力」だと答えざるを得ないと思います。実は、この素質が、大学までの学習にすべて含まれているのです。これは、全人格的な能力と言えるのではないでしょうか。ソニーの盛田さんが、「学歴は要らないが、学力は必要だ」と言われましたが、同じだと思います。

私は、「学歴は重要だ」と思います。それは、社会への「切符」という意味においてです。学歴がなくても、社会で活躍し、認められ、成功する人間は、洋の東西を問わず、古今多くいました。学歴がないことをバネに努力する人間は多くいます。ただ、多くの方にとって、学歴は、チャンスを得るための一つの手段となることも事実です。シンクながさきが長崎県から受託して行った事業の一つとして、千葉工業大学の古田先生(当時、内閣府のロボット担当、大学の常務理事)が、長崎で講演された際に、高校生を前に、こんなことを言われました。古田先生は、子供の時に、身体が不自由な時期があり、「自分の体の代わりとなるロボットがあれば、やりたいことをやれるのに」と考えて、ロボットの開発を研究する道に入ったということです。しかし、「そのためには、大学入学が必要で、「チャンスをつかむために、切符としての学歴が必要だった。」と言われました。そして、「自分が本当にやりたいことをやりぬくためにも、学歴という切符を手にしてください。しかし、本当にやりたいことはやりぬいてください。」その時に、来られていた、教育関係者はどう思われたでしょうか?

私が特任教授を務め、今は大学院の新技術創成研究所の客員教授を務めさせていただいている理科系の大学があります。学生の中には、国立大学のように多くの科目をこなせるタイプではありませんが、「一芸に秀でる」と言いますか、ロボットとか、AIとか、特定のことに強い関心を持つ、尖った学生が何人かいました。そのような学生の中から、将来の日本の科学をリードする人間が出てくる可能性があります。すべては大学の教育方針ですが、このような学生の個性を活かせる日本であって欲しいと思います。

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新年に思う~長い人生を、学びながらどう生きるか?

正月、母を施設に訪問した際、私にポツリと「100歳まで生きるかも知れない」と言いました。長生きすることは素晴らしいことです。それだけ多くの経験をし、歴史を見届けることができます。父母の時代には、18歳か、22歳から60歳まで働いて、あとは定年後の生活を趣味や旅行などで地域社会で楽しむ、というライフスタイルが多かったと思います。今は、サラリーマンでも定年が実質65歳まで延長されてきていますが、18歳または22歳から60歳までの人生が第一期、60歳から75歳までの第二期、75歳から死ぬまでの第三期に分けられると思います。健康寿命が延びてくると、将来的には、第三期が75歳から90歳までとなり、第四期が90歳から100歳までとなるかもしれません。高齢者にとっての関心事は、「健康」と「お金」と「人間関係」だと思います。健康でなければ人生を満喫できませんが、健康であっても、働かなくても食べていけるだけの年金収入や、不労所得がないと、本当に楽しむことは難しいかも知れません。年金収入を補完するために、証券運用や、不動産運用が話題にあがるのもやむを得ないことだと思います。

また、健康とお金があっても、それだけでは、楽しい人生とは言えず、家族や地域社会や友達・仲間がいないと寂しい人生と言わざるを得ません。ある著名な医師が、私にこう言いました。「中国でも日本でも、富裕層になればなるほど、入院しても、高齢者施設にも、家族が施設に来ない傾向がある。」お金があっても、施設で寂しく死んでいくのは、悲しいことだと考えるのは、私だけでしょうか?

さて、60-70歳くらいまでの年齢層にとって、これから訪れる、長寿命化社会を生き抜くためには、一部の資産家層を除き、あるいは、資産家層であっても、自分の価値を高めていって、できるだけ長く、社会的活動をすることが必要になると思います。私は、仕事でも、社会貢献活動でも、「死ぬ間際まで、活動していること」が理想だと考えてきました。ただ、何らかの活動を続けていくためには、無理のない範囲で、常に新しい知識・情報・ノウハウを入れて、活かしていかなければなりません。「知識・情報・ノウハウ習得(インプット)→実行・経験(アウトプット)→さらなるインプット→」という循環を続けていかざるを得ません。例えば、経営コンサルタントや、資産運用コンサルタントであったとしても、今後、ICTやAIの知識は不可欠になるでしょう。また、過去の知識・ノウハウのブラッシュアップも歳とともに必要になると思います。この点で、自己啓発は、若者だけの課題ではなく、高齢者にとっても大きな課題となります。若者にとって、自己啓発は、「よりよい収入・地位・成功のために」行うのですが、高齢者にとっての自己啓発は、「より充実した生活をいつまでも送るために」行うと思います。

こう考えていくと、生涯学び続けるためには、健康であるだけでなく、一定のお金(学ぶための費用)も、人間関係(ともに学ぶ仲間・周囲の理解)も必要になってくることがわかります。そして、人間は死ぬまで、「学ぶ」という行為から逃れることができないのではないかと考えます(学ぶことを放棄しない限り)。大学や企業だけでなく、地域社会もこのような場を提供していくことが必要になるかも知れません。ここに、経営のヒントがあります。

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新年に思う~資本主義から成長主義へ

新年の初めにあたり、日本が成長しづけるためには、「成長主義」への転換を図ることが望ましいと思います。日本で少子・高齢化が言われて久しいですが、実際に成熟経済になり、戦後日本の経済を牽引してきた、電機・自動車・金融(特に銀行)が業態転換を迫られています。例えば、自動車産業は、ガソリン車やデイーゼル車ではなく、EVへとエネルギー源が変わると同時に、AI導入で自動運転車に変わると、車は電子製品に近づき、自動車産業は先端的電子産業になります。このような変化は、20年も前から予想されてきましたが、先進国では、アメリカや中国の動きは、FANGや5Gの準備状況を見ても、急速に進められています。日本では、戦後3回目のロボット・AI(人工知能)導入は、現実のものとなっており、創業・ベンチャーもやっと本格化してきました。資本主義のいい面が出てきました。すでに経営基盤を確立している大企業も、先見性をもって成長力を高める、あるいは経営多角化のためにも、創業・ベンチャー企業を買収等しようとすると思います。技術・経営の「イノベーション」が日本の発展に不可欠ですが、そのためにも、「成長主義」への発想の転換を進めていくことだと思います。その前提として、創業・ベンチャー企業等に対して、金融の革新と円滑化・人材の導入が必要だと思います。今は、景気がいい状態が続いていますが、景気後退とともにこれらの企業が消えていった過去の経験を繰り返さないためにも重要です。

次に、大都市と地方の産業構造ですが、大都市は若年人口が増加し、情報集積が進んでいます。地方と比べると、イノベーションを進めやすい環境にあることは否定できません。では、地方はどうすれば成長軌道を作れるのでしょうか?そのためには、地域資源(市場・資材・人材・情報)を活かせるビジネス(農業・水産業・海洋再生可能エネルギー等)を起こし、人材を呼び込めるだけの一定以上の収益性を継続することだと思います。そして、市場は、地元にとどまる必要はなく、日本全国や世界であっていいのです。地方にも、世界的なマーケットシェアを誇る多くのバイオ・ハイテク企業が存在しています。課題は金融で、創業間もないころの公的金融・補助金・信用補完、成長期のベンチャーキャピタルやメザニン金融等、地方には乏しい金融手段の充実が必要になります。20年前に産業政策を排した全国とは異なり、地方には一定の「産業政策」が必要だと思います。

私は、1995年前後から、ベンチャー・創業企業の経営指導をさせていただいてきました。ネットによる新しいビジネスモデル企業、顧客志向の建設業等、企業と一緒に自分も成長してきたと思います。その背景には、25歳以降、シカゴ・ニューヨーク・シアトルで経験したアメリカ企業とのビジネスや情報収集があったと思います。例えば、25年前にアメリカを調査した、信用度スコアリングと金融の証券化は、住宅ローン・消費者金融のスコアリングや、それをベースとした証券化、REIT(不動産投資信託)は、日本でも日常業務となっています。そして、何よりもアメリカから学んだことは、「チャレンジする」こと、「イノベーションが価値あることだ」ということだったのかも知れません。

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新幹線と専門家の拠点

11/20、東京の自宅から栃木県小山市の住宅地にあるAI/IoT/ロボット企業のラボラトリーを訪問させていただくため、東北新幹線に久しぶりに乗りました。東京駅からわずか40分程度の時間距離で、ハイテク・ラボを訪問できること自体、頭脳企業が立地できる、新幹線効果というべきものだと思います。ラボには、世界的な企業の生産ロボットやIT機器が並んでいました。改めて感じたのは、新幹線の定時運行、時間の正確性でした。企業には広大な敷地を必要とする工場が必要な企業もありますが、企画・研究開発のウエートが高い企業もあります。必ずしも、大都市部にすべての企画・研究開発機能を集中させる必要もなく、1時間以内くらいで人が移動できれば、問題がない企業もあるでしょう。長崎新幹線が開業すれば、博多駅から大村市まで1時間で行けることになりますから、従来から申し上げているように、東京から2時間で来られる既存の長崎空港と合わせて、研究開発型のまったく新しい企業立地が生まれてもおかしくないと思います。

似たような例は、地方の中核病院にも言えます。15年くらい前に、福島県郡山市の南東北病院を訪問し、病院側からお話を伺った時でした。ここは、当時陽子線治療ができる数少ない民間病院でしたが、東京の医師に週単位で通ってもらうことができ、新幹線で専門医に来てもらいやすい立地がとお聞きしたのを覚えています。新幹線が地域医療をも変える可能性があります。

また、私が30歳の時(今から35年くらい前)、日本の将来の高齢化の急速な進展と年金市場の拡大に備えるため、アメリカの東部・西部の大手年金運用会社や、著名投資顧問会社を訪問したことがあります。ニューヨークのマンハッタン・ミッドタウンにあるアライアンスキャピタルやロサンゼルスの中心街にあるキャピタルグループ等、大手年金運用会社もありましたが、投資顧問会社の中には、ニューヨークから鉄道で1時間くらいの距離の海に面した一軒家で、屋敷の背後がヨットハーバーになっているような、閑静な場所にある企業もありました。この時、「自分も、このような地方や郊外での生活がしたい」と思ったものです。CME(シカゴ商業取引所)のレオ・メラメド会長や、ウォーレン・バフェット氏(オマハ)にお会いした際にも、地方都市で住んで仕事することのメリットを感じていました。

大都市から1時間程度で行き来できれば、静かな環境で仕事をした方がいい仕事は数多く(週に1度東京に出ることができる)、R&D型のハイテク企業、専門的病院、投資運用会社等がそれにあたると思います。関東・関西・九州等の地方都市は、快適な居住ができる、適度な人口・環境に恵まれているところが多いと思います。現在、多くの若者が、長崎県を始め、地方に移住していただいています。この流れとともに、今後の日本の産業を担う若い方々が、明るい未来を感じながらICT等成長産業に従事できる環境を、地方側も整備していかなくてはならないと感じました(画像は2019.11.20早朝)。

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奈良は「素材の強さ」が魅力

11/2奈良国立博物館の「第71回正倉院展」を見学し、また、奈良の町を歩いてみて、「奈良は素材」だと思いました。奈良の興福寺・東大寺・正倉院の境内や平城京は、私の子供時代の遊び場でしたが、これが人類の遺産であるとは、知りませんでした。1,200年以上前の、絵や仏像や家具等の正倉院収蔵品を見ていて、武骨で粗削りなところはありますが、実に人間的で、おおらかで力強い素朴な造形や人間性が表れていると感じました。これは、万葉集にも言えることです。家具等を見ていても、少し手を加えれば、ホームセンターに売ってそうな親近感があります。京都は、洗練された造形美や言葉に特徴がありますが、ある種完成された感があり、私にとって、奈良の文化財・遺品の方が、「原点」で魅力的に映ります。唐から奈良にもたらされた様々な文物や文化が、あまり手を加えられることなく、奈良で使われていたことが正倉院に表れています。京都の平安京は、骨格において中国の制度を踏襲しつつも、文化の中身は、極めて日本独特のものに変えられています。

今、私は長崎で離島を含む仕事に多くの時間を過ごし、次に東京で仕事や日常生活を送り、奈良で年に何度か行って四季の移ろいを感じる生活を送っています。最近対馬観光戦略を作っていて、「観光とは何か」を考えることがあります。観光とは、「他地域の日常を経験すること」ではないかと思います。日本人は、これまで、世界中を「名所めぐり」と称して、忙しく見て回る「物見遊山観光」に慣れてきました。でも欧米人の生活や、超富裕層の方々と接していると、ゆっくりと「旅行先で生活する」という感覚です。ハワイにしても、マリンスポーツやゴルフを楽しむということもありますが、基本は、「ハワイで時間を過ごす」ことを愉しんでいると思います。外国人観光客も、日本や他国での生活をゆっくりと体験することにより、「時間の経過を愉しむ」という最高に贅沢な立場になると思います。その中に、歴史文化を感じさせる有形・無形の文化財や、温泉や食等があれば、大変いいということになるのではないかと思います。「世界遺産があれば観光客が来る」という現象は、2-3年は続くでしょうが、20-30年続く観光資源にするには、不断の観光政策と、その地域自体の魅力維持・増進が不可欠です。観光政策と言っても、行政ができることは、地域ブランド向上やインフラ整備が主体で、民間事業者の努力に負う部分が大きいのが実情です。

私が、自治体に協力して観光戦略を見直し、成功をお手伝いさせていただいた例は多くありますが、忘れられないのは、新上五島町の旧国民宿舎建て替え時の際の、「マルゲリータ」企画と議会説明でした。ここは世界的にも珍しい、島の「馬の背」に建てられた、温泉地で、眺望が優れているだけでなく、「朝日と夕日の両方が見れる」不思議なリゾートホテルです。町営で、ホテルの建物は町が建設しましたが、運営を全国公募して、東京の「際コーポレーション」が受託しており、イタリアンレストランをオーベルジュとして併設し、日本・世界から、富裕層を含む多くの観光客が訪れて、稀有な自然環境や食事を楽しんでおられます。観光は、最後は民間の知恵をどう生かすかだと思います。それは、観光の「素材」を活かすことができるのは、民間企業だからです。この点で、奈良も長崎も多くの世界遺産を含む「素材」を抱えながら、「よりレベルの高い観光地」に脱皮していく途上にあると思います(画像は、奈良・猿沢の池から早朝の興福寺を臨む)。

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英語民間試験見送りに思う

11月1日受付開始予定であった、大学受験の「英語民間試験見送り」がきまりました。従来の大学受験で行われている「読む」「聞く」に加えて、「書く」「話す」試験を追加することになる予定でした。私は、25歳から26歳までの二年間、シカゴの大学院に留学して、その準備に手間暇かけたのを思い出しました。というのは、大学院の入学準備のために、TOEFL,GMATの一定レベル以上の点数が求められ、それをクリアするために過去問題集を学習して、さらに、これらの民間試験を受けに行くのですが、私は当時、大阪勤務でしたから、関西では神戸のアメリカンスクールのみが会場になっていて、奈良から神戸に2時間半かけて受験に行ったのを覚えています。24歳でも社会人だったから、交通費・受験料なども気にせず受験できたと思います。シカゴ大学経営大学院のAdmissionは何とかいただいたのですが、依然英語に自信が無かったので、私は、サマースクールとして、コロラド大学のEconomic Instituteに入学しました。英語で学習すると、経済学がいかにわかりやすく、論理的に面白いものであるかが良くわかりました。シカゴ大学で実際の講義が始まると、求められる英語のレベルは日本にいたときに想像した以上でしたが、最初の1か月が経過したころから慣れてきて、授業や、アメリカ人との会話を楽しむようになっていました。実際に、具体的な課題に直面しないと、人間は本気になれないものだと感じました。全ての理屈よりも、経験が優先すると説くのはこの時の経験があるからです。その後も、銀行のM&A等の業務でアメリカで交渉することが多くありました。ここでも経験がすべてに優先します。

さて、大学受験の英語の話ですが、私たちのころは、英語の試験は、「読む」「書く」が主体で、「聞く」はTOEFL・英検等だけでした。「話す」は実地で求められますが、大学入学には関係ありませんでした。私が卒業した大阪教育大学附属高等学校では、教員の英語の発音もnativeではないものの美しく、「受験のための指導」が行われることはありませんでした。当時も、公立高校は異なった教育をしていたのかも知れません。今は、小中学校から、「読む・書く・聞く・話す」のバランスの取れた本格的な英語の教育が行われ、大変喜ばしいことだと思います。そうなると、大学受験でもこれら4つの能力をテストすることが妥当だということになります。私たちの時代は、英語は海外の論文を読み、英語論文を書く能力が基本でした。大学受験でも、「読む」「書く」ことができれば基本的に良かったと思います。しかし、今は国際交流時代で、学会発表も英語で質疑応答・議論することが求められます。私の所属する学会でも、学会の理事は、和文論文に加え、英文論文の発表が必須と考えられています。それは、論文が海外から評価され、引用されないと、学者や学会も評価されないからです。ところで、では、「すべての大学受験者に聞く・話す能力」が求められるかという点については、意見が分かれると思います。本来は、研究者を輩出する大学は、これら4つの英語能力が求められることは間違いないでしょう。また、研究者以外の仕事で、英語能力が求められる時代になっているので、大学教育のレベルを高めるためには、4つの英語能力が高いことは「望ましい」状態だと思います。さらに、若い日本人が国際的な仕事をするよりも国内の仕事を指向する傾向が強いことの解決の一助になるかもしれません。

そして、教育の現場で17年間にわたり大学や大学院で講義をしてきた経験から申し上げれば、理数科をはじめとした「科学的・論理的思考力」、正しい日本語を使いこなせる「言語論理力」が不可欠であり、英語はその基礎の上に立っていることを忘れてはならないと思います。

(画像は、2019.11.3世界的な活躍をされている長崎市出身のガーデナー・石原和幸氏及び関係者と長崎で会食。英語も大事だが、中身の技術や感性はもっと大事。)

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対馬観光戦略、そして三井交友会

17日午前のANAで福岡空港から対馬市に5年ぶりに入り、午後、長崎県対馬振興局のご案内で、比田勝港周辺の企業や18銀行を訪問・ヒアリングしました。18日は朝から石屋根集落や厳原周辺を視察し、午後から「対馬観光検討会」に出席させていただきました。この会議は、韓国からの観光客が9割減少していることに対応し、今後の観光戦略について検討するために開催されました。私が座長に選任され、各委員の皆さんの今後の対馬観光に関するご意見をじっくり伺いました。業界各団体や旅行会社だけでなく、日韓交流団体・飲食業界・着地型観光を担う団体等、広くヒアリングさせていただきました。18日の19:10の対馬―福岡便に乗るため、対馬空港に向かいましたが、雨がひどくて、30分遅れで出発しました。プロペラ機なので有視界飛行の限界です。21時19分の長崎行き高速バスで長崎に戻ったのが、24時前でした。5時間ほど寝て、すぐに長崎空港に向かい、12時から新宿三井ビル54階の「三井クラブ」で行われた、三井交友会に出席しました。この会は、元々旧三井銀行調査部の経験者の懇親会でしたが、今は、さらに範囲を拡大して開催されて160人程度になっています。調査部も時代とともに変わってきていると思いますが、私がいた1984-85年当時は、後藤新一調査部長の時代で、「人を育てる」ことに熱心であったように思います。午後5時で仕事が終わったら、月に一度くらい、全員で事務所内で懇親会が行われ、後藤部長(九州大学博士)を中心に、様々な経済・金融に関する率直な意見交換が行われました。いわば経済・企業調査のプロとしての「後藤イズム」の薫陶を受けたわけです。その際に、後藤部長が繰り返し言われたのは、「満鉄調査部を目標にしたい」でした。私は、シカゴ大学大学院に留学させていただいた際に、極東図書館(Far Eastern Library)の一角に、満州鉄道調査部の月報が並んでいたので、現場を見る調査能力に驚いたことがあります。今は「働き方改革」でこんなことはできないと思います。当時の三井銀行調査部は調査の枠を超え、秘書課とも連携し、三井グループを抱えた会長・社長(他の金融機関であれば頭取)などのブレインとして機能していました。私も、26歳で会長・社長・副社長の支店長会での原稿素案をそれぞれ執筆させていただき、本人とじかにお話しさせていただき、これが最高の勉強になったと思います。経営者は、自分より何十段も広く深く考えていることを感じました。あれから38年の時が流れ、二度の銀行合併を経験し、今は全員高齢化していますが、交友会で皆さんが口々にしたのは、「いい銀行だった」という言葉でした。私は日本総研に移籍しましたが、及能さん(西南学院大学名誉教授)、足立さん、波木井さん(山梨県立大学名誉教授)等大学教授になられた先輩も多く、70歳以上になられた今は、現役を引退されています。皆さんの目標は、「来年もこの交友会に出席できるように健康維持を」だそうです。

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今年は台風の影響を受ける年~やりたいことができる時間が大切

2019.9.7:9日朝から東京に移動する予定でしたが、台風13号が過ぎて、15号が関東・東海に上陸するまでの時間に着陸する便を選んで変更し、7日午後便で長崎から東京に移動。ここ2-3年は、台風のために飛行機・船の欠航や、豪雨のための高速道路閉鎖で、仕事に支障が出ています。九州をはじめとする西日本に台風が上陸することが多く、県内外を予定通り移動できず、仕事のチャンスを失っていることも多いと感じます。同時に、航空会社をはじめとする交通機関も、欠航が相次ぐと、収入が減って、ボーイング787型機を保有しているアメリカの航空会社の業績が悪化しているのと同様、一時的に台風が企業業績に影を落とす可能性があることも否定できません。そして、交通機関が動けなくなった時に、どうやって時間を有効活用するか、が大事になります。人間に与えられた時間は限られているからです。私は、長崎にいるときに飛行機やジェットフォイルが台風で移動できなくなることが多いので、仕事以外は、日ごろ書けない依頼原稿や先々の講演資料作成、先々に締め切りがある学術論文の執筆等、アウトプットに充てることが多いのですが、休日の場合は、健康のため、長崎の「福の湯」に浸かったり、長崎の風物を題材にして俳句を作ったりします。東京で移動が天候のために制約された場合は、東京のシンクタンクの打ち合わせ以外は、上野の国立博物館に行ったり、新宿紀伊国屋本店や、伊勢丹の地下食料品フロアやメンズ館や、ビックロに行ったりします。経済を扱う仕事をしている以上、どうしても物価や、内外問わず、買い物客の動向が気になるからです。ただ、この年になると、だんだん物欲が無くなるのか、若いころにあれほど旺盛であった「欲しくてたまらない」ものが減っていくことも確かだと思います。家内は、「消費税引き上げの前に別の時計を買っておいたら?」とか言ってくれますが、これも、自分が欲しいものを買えるように環境整備をしているのだと考えています。では、時間が空いたら本当に何がやりたいのかと自問すると、「世界旅行、フロリダでリゾート生活」などと、ジム・ロジャースのようなことを考えてしまいます。長崎のある居酒屋チェーンのオーナーが10年前くらいに、バイクで南米旅行をされていましたが、未知との遭遇により、次のビジネス展開を考えておられたのではないかと思います。現役を引退されて、悠々自適の生活をされている諸先輩に、この点を聞いてみたいと思う、今日この頃です。

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IR(特定観光複合施設)が目指す新時代のグローバル観光

6/20朝9時から、東京・丸の内ビル8階の東京駅を見下ろすホールで、不動産証券化協会主催の座談会が行われ、シンクながさき理事長、九州・長崎IR有識者委員会座長として、出席させていただきました。内閣府から出された基本方針によれば、大規模なコンベンションMICE施設・大規模なホテル・全国への送客のための施設等、5種類の施設を組み合わせて新たに建設する必要があります。東京は別として、日本の他の都市には、それだけの規模の施設が大幅に不足していることは事実で、それを収支面で可能とするために、国家戦略として、カジノを含むIRを設置しようとする動きだと思います。実務的には、大規模な施設を地方に作ることは様々な議論が出てくると思われますが、観光のレベル(観光客数・観光諸費額・観光客のレベル)を引き上げるには、またとないチャンスだと思います。特に、九州と北海道は、極めて豊富な観光資源(大自然・歴史文化・食材・料理・エンターテイメント等)の素材を有しています。IRとは、日本の地方の観光を掘り出し、世界から人を呼ぶために、絶好の仕組みだと思います。九州・長崎は、日本史の中でも、アジア・西洋の文化と文明を真っ先に受け入れてきた地域で、国際交流の中心地です。九州地域として、空港・道路・港湾等のインフラの不足分を整備することで、IRを運営し、地域を発展させ、日本の各地に観光客を送客することが可能だと、座談会の皆さんのご意見をうかがっていて、感じました。

次に、IRに不動産証券化協会が関心を寄せているのは、MGMリゾーツ・インターナショナルがIR内のホテルやコンベンションセンターなどをポートフォリオに入れた不動産投資信託(REIT)、MGMグロース・プロパテイズを、アメリカで上場したことです。私自身が若い時に、日本のリート導入の不動産市場・経済に与える影響を大手不動産会社からの要請で研究していた経験があり、その有用性は現在のジャパンREIT市場の成長を見れば明らかです。当時は、バブル崩壊後の不動産市況の悪化から抜け出せず、日本経済が再生の活路を模索していた時代でした。REITの活用ができれば、ファイナンス面で事業主のリスクの一部を軽減し、安定した経営を目指すことができると思います。

私が座談会で強調したことの一つは、IRの設置・運営を通じて、多くのIoT/ロボット/AI/5Gなどの技術を活用して、国内外の企業・大学・高等専門学校等と連携して、グローバルレベルの新しい観光産業と人材の育成を行うことができるという点です。また、九州及び日本の地域資源の魅力を引き出すことによる観光の高付加価値化、例えば、歴史の重みを感じさせる一泊10-20万円以上の宿泊施設に、世界中から観光客が来る時代がすぐそこまで到来していることも、お話させていただきました。(Facebookの記事も一緒にご覧ください。)

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