おもてなしの長崎県を(長崎新聞1月21日掲載コラム)

昨年大晦日にホスピタリティマネジメント学会から、私が2年前に発表した国際観光に関する論文が学会特別賞を受賞したとの電話連絡をいただきました。2012年は世界経済・日本経済が様々な課題を抱えて先進国・新興国とも成長が鈍化すると見られますが、こういうときこそ、地域は観光・物産・福祉等の分野で独自の歩みを進めるべきであると思います。特に長崎県は、「人の交流」で発展してきた歴史を活かして、発展を続けることが出来る県です。
ホスピタリティは、日本では一般に「おもてなし」と理解されていますが、①精神と、②実際の行動に分けることができます。①ホスピタリティ精神は、相手の価値観や存在意義を認め、信頼しあい、助け合う、「共生・共有・共感・共創」の精神です。②実際の行動は、「笑顔・挨拶・お辞儀の三要素をもって、ヒト対ヒトに対して適切な立ち居振舞いをする」ことです(同志社大学山上徹教授)。
観光分野は、ホスピタリティがないと産業として成り立ちませんが、他地域との観光客誘致競争に勝つためには、上級のホスピタリティ表現として「感動の演出」が必要となります。ヒトは思いもよらず大事に扱ってくれたときに感動を覚えます。それがほんのささやかなサービスであっても地域の方々との予期しない出会いでも良いのです。私が世界遺産の事例調査のため熊野古道を尾鷲市に訪ねた際、ユネスコの世界遺産調査委員たちが最も評価したのは、たまたま出会った子供たちの一団が、一生懸命熊野古道について学んでいる姿だったと聞きました。
今年長崎上海航路が開業されますが、中国人等の観光客にどんなホスピタリティを感じてもらうかが定着の決め手です。また、コンベンションによる街作りについても、施設の作り方、交通利便性、アフターコンベンション等、企画にはホスピタリティが求められています。
医療・福祉分野も人間の生死や生活の質と深く関わっているため、ホスピタリティが最も求められます。例えば医療では、病室環境の改善などハードだけでなく、「患者に寄り添う医療」こそが患者満足度を高めます。私が長崎県が「医療・福祉産業に適している」と思うのは、上質の環境と並んで、ホスピタリティを担える人材が多く、他地域から人を呼び込める可能性が大きいからです。

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小売の地域集中出店は妥当な戦略か?~コスモス薬品の事例

福岡市に本社を置き、九州で500店ドミナントを推進するドラッグストア、コスモス薬品の経営戦略は小売のタブーである「自社競合」に挑戦している点で興味深いです。私は、過去15年間にわたり、セブンイレブンのドミナント戦略を参考にして、小売り・美容店・エステ等の分野で出店戦略のコンサルをして来て、大きな成果をクライアントにもたらしてきました。ドミナント戦略が成功するのは、人材活用・共同配送等により販管費コストを削減できる場合で、各店舗が一定の商圏で来店者数を確保できる場合です。特に火災・地震・病気等の緊急時、人材面で近隣店舗の支援ができるという隠れたメリットもあります。コスモス薬品は、「商圏人口1万人でも成立する大型のドラッグストア(小売圏メガドラッグストア)」を小さな商圏に展開しています。この場合、「大型店でありながら広域からの集客を見込むのではなく、来店頻度を高めることで商圏人口を倍増させ、小さな商圏でメガドラッグストア(大型ドラッグストア)が成り立つビジネスモデルを構築」しなければなりません。そのためには、「everyday low price」も重要ですが、常に一定の競争力のある商品の品揃えをするためのマーチャンダイジング機能、「low cost operation」も必要になります。これは通常時、利幅を取ることに加え、外部環境に異変が起こった場合も売り上げ減少に耐えうる経営体質にするため(ストレステスト)にも必要です。九州や長崎県内にも小さな商圏に集中出店している(あるいはしようとしている)小売が多く存在しますが、このような条件を満たさないと、維持・発展は難しいのではないでしょうか?

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黒龍の年に飛躍したい

毎朝欠かさず見ている東京12チャンネルの5時45分から6時35分までのテレビ番組「モーニングサテライト」で、韓国の「黒龍の年」が紹介されていました。これは、韓国で、「60年に一度の縁起のいい年」と言われている年で、今年中に子供を産みたい女性が産婦人科に相談する姿が放映されていました。日本では昔は「五黄の虎」の年の女の子は敬遠されたと聞いていますが、どんな年でも子供を授かることほど夫婦にとってうれしいことはありません。また、赤ちゃん用品のニーズも大きく、日本と同様、夫婦だけでなく祖父母からの贈答用に、肌着等にかわいい「黒龍」を縫い込んだ衣類が売れているそうです。また、銀塊に黒龍を刻印した商品も人気があり、仁川の中小企業では、1トンの売り上げを見込んでいるそうです。60年に一度であれば、多くの人にとって一生に一度訪れる好機です。今年は私も飛躍の年としたいと考え、黒龍にあやかりたいと思います。来週1月23日から、地元長崎ではランタン祭りが始まります。幸運をもたらす赤や金の龍が躍る「蛇踊り」でにぎやかになります。

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長崎近代化遺産研究会で案件報告

1月18日夜、長崎近代化遺産研究会・1月例会で、理事を務めている私から、①産炭基金ガイドブック制作事業実績(平成23年度)の終了報告、②文化庁軍艦島・高島を活かした観光振興・地域活性化事業(平成23年度)の経過報告をいたしました。①については、初めて作られた石炭産業の歴史と日本の近代化に関するガイドブックが大変好評で、平成24年度には内容をさらに充実・大幅に見直し、商業出版をすることを検討することになりました。また、10月16日長崎県美術館で開催したシンポジウムもアンケート調査によれば、わかりやすかったと好評でした。平成24年度は、早期の「九州・山口の近代化産業遺産群」のユネスコ世界遺産登録に向け、着実な研究・啓発活動を続けていきたいという意見が多く出されました。

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CCRC研究所窪田先生と意見交換

1月18日午前、CCRC(Continuing Care Retirement Community=高齢者健康コミュニテイ)研究所の窪田昌行代表取締役と九州大学医学部コラボステイション(吉塚)でお会いし、日本の高齢者施設・地域包括ケアシステムの在り方や、日本の10年先を行くアメリカの施設実態についてお聞きしました。私は、かねてから、日本に幅広い高齢者の生活を支えられる施設の建設推進を考えてきており、アメリカのCCRCが一部の富裕層ではなく、中間層の高齢者のための施設として100年間以上にわたって発達してきた政策上・経営上の要因に関心がありました。できれば、長崎県でも県南・県北にこのようなモデル施設を作り、高齢者のための社会的先進システムを構築したいと思います。そのためにも日本の有料老人ホームの抱える経営・財務上の課題を克服することが必要になります。アメリカでは、利用者が設立したNPO法人が施設事業主となって、州法が保護する制度が設けられているので、現地にも行って調査したいと思いました。

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13日の金曜日は無事ではなかった

1月13日の金曜日に、KTN(テレビ長崎)の番組審議委員会で、「今日は13日の金曜日だけど事件が何も起こらなくて良かったですね」と話していたら、その夜、格付け会社S&Pが欧州9か国の国債格下げを発表しました。イランのホルムズ海峡封鎖の可能性もあり(実際に起こると、現在1バレル98ドル程度の原油価格は200ドル位までは上昇する)、国際経済金融情勢は文字通り「油断」できないという実感です。欧州債務金融危機は簡単に解決はしないものの、ヘッジファンドが次のターゲットを求めて日本国債の売りを仕掛けてくる可能性があり、今のうちに財政再建の道筋を明確に示すことが必要です。国債が下落すると、いくらいい運営をしていてもつられて地方債・社債・REIT(不動産投資信託)も下落(長期金利が上昇し)し、地方財政逼迫や金融機関(特に地銀)の経営悪化につながります。国は、一定の歳出削減と様々な税収・公営企業株式公開益等を使って、長期的な財政収支と短期的な手元資金余裕を作っておくことが喫緊の課題となっています。

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シカゴ大学の懐かしい友人と再開

1月12日、日本総研や研究会・講演に行くための飛行機の中で日本経済新聞朝刊を見て、シカゴ大学経営大学院で同窓だった津谷正明氏(59歳)がブリジストンのCEOに就任予定との記事を見て、懐かしく、また嬉しく思いました。また、14日には、同大学院時代の後輩の林弘敏氏と赤坂東急ビルの事務所で会い、旧交を暖めました。林氏は、若いころロンドンで証券会社(London and Oxford)を立ち上げ現在もオーナーを続けつつ、今はお子さんの教育のため東京に住んで、日本論理検定協会(The Japan institute of Logic)を立ち上げ、理事長を務めておられます。林氏がやっている事業は、単なる「論理力」の問題ではなく、日本人が弱い「論理的思考力」の養成を通じて、グローバルに通用する人材の育成を目指しておられ、社会的意義の大きな事業です。私が現在調査検討している、「外国語を自由自在に使って国際社会・ビジネス・科学分野で活躍できる人材の育成」を目指す大学・研究所・教育機関の設置とも同目的で、共有できる部分が大きいと思いました。

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KTN(テレビ長崎)番組審議委員会新年会

1月13日、私が委員長を務めさせていただいているKTN(テレビ長崎)で番組審議委員会および新年会が行われ、出席いたしました。KTNは地方局独自番組を多く作成し、特に報道番組やドキュメンタリーの質が高いことに特徴があると思います。2012年も、上海航路・ハウステンボス・ロンドンオリンピック等明るい話題もある一方、欧州危機の影響・国債の格下げ・原子力発電所の停止などが今後現れる可能性が大きい等、課題も多い年です。番組でも明暗両面・賛否両論を表現して、視聴者に考えていただく内容を情報提供することが必要だと思います。

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国家を揺さぶる市場~日本経済を安定させるために

1月10日午後7時半NHK「クローズアップ現代」で1時間15分にわたり、欧州危機問題が取り上げられていました。ここではテレビで取り上げられている切り口とは別の観点で考えたいと思います。NHKでこのような番組が放映され警鐘が鳴らされると、暫く経って日本経済が現実に危機にさらされるということを、アジア通貨危機・不良債権問題・バブル崩壊などで経験してきました。これは、兆候が現れた時点では、市場の力(時には暴走)を食い止めることがなかなかできないことを意味しています。また、私のように、経済・金融・株価・為替などの予測を若い時から行ってきている人間には、統計データや各種数値と並んで「市場」を見ることは予想の「的中性」を高めることにつながります。「市場」を構成する大きな存在はこれまでは機関投資家・年金基金等でしたが、今は欧米のヘッジファンドや個人の集団の力が大きくなっています。2009年のリーマンショックや今回の欧州危機がこれまでの金融危機と異なるのは、金融システムを守るために金融機関支援という財政措置を行い、これが財政を悪化させ、国家財政破綻につながるという事実です。国家のデフォルトや財政破綻は過去にも、南米諸国やアジア諸国で起こっていますが、今回のむずかしさは、発展途上国ではなく、先進国で起こる可能性を欧州危機で露呈させてしまったことにあります。1月11日早朝、フィッチ社がフランス国債の格付けの引き下げを年内見送るとのニュースが流れましたが、イタリア・スペイン国債については1~2段階引き下げることを明示しました。私は、日本は国債が海外投資家に保有されていないから暴落しないとは考えません。昔と違い、日本国債の価格を取引する日本国債先物市場がシカゴ・東京・シンガポールにあり、デリバテイブ(派生取引)が現物市場を牽引する可能性が大きいからです。「市場は兆候が現れる前に原因を摘み取る」ことが最善の策で、市場が一旦動き出したら止めることは容易でないことを経験しています。日本が市場の力に勝ち、国民の富を失わないようにするためには、プライマリーバランスの均衡化など本来の財政健全化が必要ですが、市場は待ってくれない可能性があるので、当面は消費税等の税収確保策を急ぐことが必要であるという「切羽詰まった」状況に置かれていると思います。民主主義国家で重要なことは、財政状況を国民に適切に示すことであると考えます。昨晩のNHKの番組は、国家財政を考える重要な材料を国民に提供したと思います。

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外国人観光に関する発想転換を

12月30日、国際観光戦略研究所の木村代表と新橋の第一ホテルで話していた際、ロビーを行き来するお客さんが中国語・タイ語などを話し、ほとんどがアジア諸国からの観光客でした。秋葉原や銀座や福岡だけでなく、東日本大震災で一時激減した外国人観光客は急速に戻って来ています。ただ、円高が進行しているので、今増加しているのは、国民所得が増加し、中間層が勃興している諸国の観光客が多いと感じられます。木村氏とは、日本が外国人誘致戦略を実行に移すのが遅く、世界の流れに取り残されてきた状態から早く政策転換を図るべきだとの話で盛り上がりました。本日1月10日の日本経済新聞には、「外国人客にカード優待」という記事が出ていて(三越伊勢丹5%引きなど)、民間企業がまず外国人取り込みに注力しているのが良くわかります。地方でも今後外国人観光客が急増する可能性が大きく、民間企業も迅速に準備を進めることが必要になります。加えて、外国人はコンベンションやショッピングやエンターテインメントへのニーズが大きいので、地域を挙げた取り組みこそが求められます。今回、私が日本ホスピタリテイマネジメント学会から学会特別賞をいただいた論文が「長崎における国際観光客の観光行動とホスピタリテイを高める地域政策」でしたが、外国人の嗜好・行動分析も求められます。昨年12月27日に出版された、菅下清廣氏の「世界のお金持ちはどこへ投資しているのか?」の一節は、民間の立場から興味深い点を衝いています。「おそらく、観光で飯を食うのは二流国だという発想があったのでしょう。ところが、今では観光に力を入れるのが一流国の条件のようになっています。」(153ページ)震災後、経常赤字に陥った日本経済を浮揚させるためにも、外国人観光客誘致は喫緊の課題なのです。

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