JR九州元会長・石井幸孝氏との対話~慧眼に学び、国・地域を構想する

6月11日、ながさき地域政策研究所の理事会が終わった直後、元JR九州会長の石井氏が来訪され、長崎新幹線問題について、意見交換させていただきました。石井氏の著書「人口減少と鉄道」に書かれている通り、長崎県と佐賀県の利害を調整する際に、佐賀空港まで新幹線を延ばすことが解決策の一つになると話されました。私が新幹線誘致問題にかかわるようになったのは、15年前、長崎県から招へいを頂き、シンクながさきに日本総合研究所からきてからでした。私は、新幹線は国家プロジェクトであり、地域にとって今後100年以上にわたってインフラとなると説明していました。ただ、投資額の問題もあり、フリーゲージトレインを検討せざるを得なかったと記憶しています。フル規格が無理なら、何も無いよりフリーゲージトレインでもいい。スペインにも導入事例がありました。まずは日本の財政が逼迫しない間に、長崎新幹線を確保しておくことだと考えていました。2012年12月に安倍政権が発足してから、日本経済は上向きに転換し、人口減少を食い止める地方創生戦略が打ち出され、子供子育てや働き方改革政策が具体化していきました。しかし、これらの政策が効果を出すには時間がかかります。長崎県で私が企画にかかわってきた案件を見ても、10-15年かかっています。石井氏との対話で、私が考えさせられた点が三つあります。

①第一点は、日本、特に三大都市圏を除き、人口減少が急速に進展する中で、九州等3島の鉄道事業は、鉄道だけでは維持も困難になること、これを打破するには、経営多角化を進めることです。その際に、JR九州の社長・会長として、近畿日本鉄道の多角化戦略を参考にしてきたことは驚くべき慧眼だと思いました。2016年秋から、私が東京都庁の専門委員(市場問題プロジェクト)として、豊洲新市場の市場会計(独立会計)や築地市場の再開発を議論した際に、利便性の高い土地の利用は、不採算事業と複数の収益事業のポートフォリオ構築が公的事業維持・発展のための一つの解決策であることを示したのと似ています。

②第二点は、全国の交通網を再度見直す必要があり、「新幹線物流」と「空港と鉄道のリンケージ」ということです。新幹線物流は、当時私はあまり重視してきませんでした。それは、輸送効率がトラック輸送に比べて低かったからです。ところが、九州を始め、3島新幹線や在来線は、その維持のためにも、物流機能を強化する必要があるのではないかと思い始めました。新幹線の空き時間や夜間の貨物専用新幹線が可能だとしたら、その活用を図らない手はないと思います。トラック輸送にも輸送力や人材獲得・コストの面で、限界が生じ始めており、鉄道輸送がコストが安ければ、需要は伸びる可能性があると思います。「空港と鉄道のリンケージ」は、空港と鉄道の乗り継ぎの悪さから、最初から地価の高い日本ではなかなか難しいと考えていましたが、石井氏の言われるような、佐賀空港に新幹線を乗り入れるリンケージが実現すれば、空港の利用優位性は格段に高まることになります。問題は工事費用の捻出です。長崎新幹線の経路はすでに決まっていて、変更は難しいのですが、大村市の新大村駅設置を議論した際に、長崎空港とのアクセス改善があげられました。石井氏のこの案は、もっと重要な課題を提起しています。それは、既存空港の活用度をもっと高めることが必要になるということです。今、日本中でみられる国際観光客の急増と、東京オリンピックを控えた航空需要の急増対策が喫緊の課題です。それは、また、私が有識者委員長として議論してきたIR(複合型リゾート)開発の検討の際にも、世界からのお客様を受け入れるアクセス改善の方策として、福岡空港の整備の限界と、長崎空港・北九州空港・佐賀空港などの拡充の必要性が議論されました。新幹線とは離れてしまいますが、空港間競争の熾烈化も避けられません。長崎空港の経営の拡充が必要で、そのための民営化等も検討が必要です。

③第三点は、災害時対応ができる交通網の整備です。JR東海がリニア新幹線を東京ー名古屋の山間部を通る路線として開発しており、海岸線を通る東海道新幹線では、大地震等の際に、交通網が寸断される可能性があるので、計画されたのですが、東日本大震災を機に、その必要性が格段に高まったと私は考えていました。リニア新幹線沿線人口も今後は減少して行き、東海道新幹線の乗車率が低下していくことが予想されます。その際に、災害時対応と新幹線物流が、整備を続けるロジックとなる可能性は十分にあると思います。

これらの論点は、私が考えてきた方向性ともほぼ一致していますが、実現可能性とともに、「どこまで実現するか」を今から検討しておくべきではないかと思います。

画像DSC_2337

(画像の下部に「佐賀空港」が見える。この空港まで、新幹線を延伸するることを、石井氏は唱えられている。6/13機内から撮影。)

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